CASE フォークリフト専用 トラック荷台シート掛け機
構想設計

本案件は、お付き合いのある運送会社の社長様との何気ない会話から始まりました。「平ボディのトラックに、どうやってシートをかけているのか?」という問いに対し、現状は作業員が危険を伴いながら荷台に登って作業していること、クレーンなどの大型重機を使用するのはコストに見合わないという実情が明らかになりました。
この「作業員の安全を確保しつつ、効率的にシートを着脱したい」という切実なニーズが開発の出発点です。当初は地面を自走するタイプの装置を想定していましたが、より多くの現場で手軽に導入できることを目指し、コンセプトの検討を進めました。最優先事項は、荷台の上での危険な手作業をなくすこと。その実現に向けた具体的な方法を模索することから設計はスタートしました。
要素検討/試験

初期構想であった自走式装置には、いくつかの課題が想定されました。
- 設置場所の制約:地面にレールを敷設する必要があり、大規模な工事が必要になります。また、アンカーボルトで固定するため、地面の強度が確保できない場所では設置が困難でした。
- 動力源の課題:広大な敷地を持つトラックヤードのどこへでも自走させるには、長大な電源ケーブルが必要になる、もしくは大型のバッテリーを搭載する必要があり、実用性に欠けました。
これらの課題を抜本的に解決するアイデアとして浮上したのが、多くの物流現場で既に導入されているフォークリフトを活用することでした。フォークリフトに装置をアタッチメントとして取り付けることで、移動の自由度と高さ調整の機能を両立でき、電源の問題もクリアできます。
この基本方針に基づき、主要な技術要件の検討に着手しました。例えば、シートの最大重量を100kgと想定した場合、アームのどの部分にどれだけの強度が必要になるか、安全率はどの程度見込むべきか(例:30%増し)といった、装置の根幹をなす性能の原理検証を行いました。
基本設計

フォークリフトへの装着を前提としたことで、装置の基本構造はアームが前方に突き出す「片持ち構造」となりました。最大の課題は、3.5mにも及ぶ長いアームが自重やシートの重さで垂れ下がってしまう「たわみ」の問題です。
この課題を解決するため、3D CADによる強度計算を繰り返し実施しました。アームの強度を確保しつつ、たわみを抑制するために、支柱を追加しワイヤーで吊り上げることで力を分散させる構造を採用しました。
また、非使用時の保管を考慮し、長いアームを半分に折りたためる収納機構も設計要件に加えました。折りたたみ部分は構造的に弱点となりやすいため、特に強度を重視し、安全率3を確保した堅牢な設計としています。この段階で、お客様の予算や設置スペースに応じて選択できるよう、「省スペースで収納できる高価格タイプ」と「設置場所は必要だが安価なタイプ」という、製品の基本的なラインナップも決定しました。
詳細設計

基本設計で定まった仕様を基に、各部品の具体的な形状や寸法を詰めていきました。
- クランプ機構の具体化:操作性を高めるため、シートを取り付ける際は1つずつ確実にクランプし、取り外す際は一括で自動解放できる機構を開発しました。この独自の機構は、技術的な優位性を確保するため特許を出願しています。
- 操作性と安全性の追求:折りたたみ機構は、アームを展開した際にクランプ部が常に作業しやすい適切な位置に来るよう、細部の構造を精密に設計しました。また、万が一の事故を防ぐため、クランプ部には接触防止のガードを設け、危険が想定される箇所には注意喚起を促す危険色を施しました。
- 使用環境への配慮:荷物の積み下ろしは屋内外を問わず行われるため、雨風にさらされることを想定した材質選定や表面処理を行っています。
これらの詳細な設計を経て、お客様が現場で安全かつ簡単に使用できる、信頼性の高い製品図面を完成させました。